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上将倫

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上将倫(かみまさのり) / 弁護士

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コラム

男女間トラブル事件簿その11~死亡した内縁の夫名義の家に内縁の妻は住み続けることができるか

2014年11月10日 公開 / 2021年2月24日更新

テーマ:男女間トラブル事件簿

コラムカテゴリ:法律関連

コラムキーワード: 相続問題

 内縁関係(事実婚ともいいます)を巡る法律問題に関するご相談が、最近、増えてきたように思います。
 内縁関係を巡る法律問題自体は、かねてから存在する典型的な論点ですが、従来、内縁を選択されるケースは、何らかの事情があるため、事実上、夫婦として暮らしているが、入籍はしない、あるいはできないということが主な理由で、内縁の絶対数自体が多くなかったため、そのトラブルが持ち込まれることも、それほど多くはなかったのだと思います。
 しかし、近時では、夫婦別姓をはじめとする様々な夫婦のあり方についての価値観の多様化が進み、内縁関係を選択されるケースが増えているといわれており、内縁関係を巡るトラブルが増加しているのは、このような社会的背景の影響かもしれません。

 内縁は、法律的には、「婚姻意思をもって共同生活を営み、社会的には夫婦と認められているにもかかわらず、法の定める婚姻の届出手続をしていないため、法律的には正式の夫婦と認められない男女の結合関係」などと定義されます。
 判例実務上、内縁の夫婦関係にも、法律婚の場合と同様、互いの同居・協力・扶助義務(民法752条)や、貞操義務(夫婦が相互に配偶者以外の相手と性的関係をもたない義務。民法770条1項1号参照)、婚姻費用(生活費)の負担義務(民法760条)、内縁解消の際の財産分与請求権(民法768条)等があるとされています。
 また、内縁解消には、離婚と同様の正当理由(民法770条1項各号)が必要と解されています。

 ですから、例えば、内縁の夫が浮気をして内縁関係が破綻した場合、「内縁関係の存在」と、「内縁の夫の浮気(性交渉を伴うもの)」、「それにより(内縁の)夫婦関係が破綻した」というような事実関係が全て証明できれば、内縁の夫に対する損害賠償請求も可能ということになります。

 ただ一方で、内縁関係には、法律婚と同様の効果が認められない部分が、厳然として存在します。
 内縁の夫婦相互間の相続権は認められませんし、その間に生まれた子どもは、認知をしても「非嫡出子」という位置づけになります。
 特に、内縁の夫婦相互間に遺産の相続権がないことは、法律婚との極めて大きな落差であり、内縁の夫婦の一方が急死した場合などに大きな問題となってきます。

 中でも、「死亡した内縁の夫の持ち家または賃借家屋での、内縁の妻の居住は、どのように保護されるか」というテーマが、古くから裁判上でも問題とされてきました(ちなみに、現実に住んでいる人には「居住権」なるものがあるなどと言われることがありますが、法律的には「居住権」という権利はありません。だからこそ、いかにして救済するかという問題が生じるわけです)。

 この点、亡くなった内縁配偶者に相続人がいない場合は、相続権がなくとも、権利を承継することができるケースがほとんどであるため、比較的問題となりません。
 すなわち、家屋賃借人の場合は、借地借家法36条に、内縁の夫婦も賃借権を承継する旨の規定がありますから、当然に承継することができますし、持ち家の場合についても、きちんと手続をとれば、家庭裁判所の判断で、被相続人と特別の縁故のあった者に相続財産の全部又は一部を与えることができるという「特別縁故者」の制度(民法958条の3)によって、家屋所有権の分与を受けられるケースが多いでしょう。

 問題となるのは、亡くなった内縁配偶者に相続人がいる場合です。
 家屋の所有権または賃借権は、その相続人が承継しますから、遺された内縁の妻(または夫)には、これら権利を承継する余地はありません。
 相続人側からすれば、遺された内縁配偶者など赤の他人なわけで、面識すらないことがほとんどでしょうから、立ち退きを求めていくのは、むしろ当然の流れといえます。
 しかし一方、遺された内縁配偶者にとっては、亡くなった内縁配偶者の預貯金などの遺産も相続できず、ただでさえ、精神的・経済的なダメージを負っているところに、その上、生活の最たる基盤である住居まで失うことになれば、死活問題になりかねません。
 老齢の身であったりすれば、尚更です。

 この点、裁判所は、相続人からの内縁の妻に対する退去・明渡請求は、「権利の濫用」にあたり許されない(最高裁昭和39年10月13日判決、東京地裁平成9年10月3日判決等)、あるいは、内縁の夫の生前に、内縁の夫婦の間で、両名が同居していた内縁の夫所有の建物について、「内縁の妻が死亡するまで、内縁の妻に無償で使用させる旨の使用貸借契約が黙示的に成立していた」(大阪高裁平成22年10月21日判決、名古屋地裁平成23年2月25日判決等)とすることによって、相続人からの請求を棄却し、内縁の妻の居住を保護するという判断を示しています。

 ただ、これらの裁判例を読み込んでみると、いずれの法律構成による場合でも、遺された内縁配偶者の居住が保護の対象とされるかどうかは、当該事案における具体的な事実関係などから、遺された内縁配偶者に、保護すべき切実な事情が認められるかどうかというところにかかっていると考えられます。
 すなわち、「内縁関係があった」というだけで、直ちに、遺された内縁配偶者の居住が保護されるとはいえず、場合によっては、立ち退きをしなければならない事態が生じてしまうことも十分に考えられるのです。

 結婚や夫婦関係のあり方も多様になった現代では、内縁の夫婦関係は決して珍しくありません。
 しかし、前記のとおり、内縁配偶者の遺産の相続権がないなど、内縁関係には、法律婚の重要な効果が認められない場面がありますので、明確な理由があって正式に入籍されない場合は別ですが、「互いに婚姻届を出す意思をもっているが、今のところ入籍していないことで不自由なことなどないし、タイミングがきたときに」などと先延ばししているようなケースでは、きちんと話し合いをして、早めに届出をしておかれるのがよいように思われます。
 実際に、「いつでも婚姻届は出せる」と考えているうちに不慮の事態が生じて、紛争化してしまうケースは、実務ではしばしば見られるのです。

 私自身も、「内縁の夫が、突然、脳梗塞で倒れてしまい、日に日に明確な意思表示できなくなっていく中で、慌てて内縁の妻が婚姻届を出した」というようなケースで、夫の死後、その相続人から、当該婚姻は無効であるとの主張がなされた事案に関わった経験があります。

 現行法上、内縁関係のままでいることにはリスクがある以上、婚姻届を提出したり、あるいは内縁配偶者のために遺言書を作成しておき、もしもの時に備えておくことが望ましいでしょう。

                                  弁護士 中村正彦

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